ある投資家が同業他社と比較して感じた小さな違和感が、何年も続いた耐用年数の操作を明るみに出した。 数字は、機械の寿命が延びた理由が技術ではなく業績にあったことを示していた。
舞台となる企業
トウカイ工業は金属加工用の大型設備を製造するメーカーで、年商250億円。重い設備投資が利益を圧迫し、 薄氷の黒字が続いていた。
耐用年数延長という手口
工場長は経理課長に、複数の設備について耐用年数を段階的に延ばすよう依頼した。一億円の機械であれば、 耐用年数を十年から二十年に延ばすだけで、毎年の償却費は千万円から五百万円へ半減する。設備そのものの 実態は何も変わっていないにもかかわらず、帳簿上の年数だけが書き換えられていった。技術革新によって 設備の陳腐化がむしろ早まっている局面でも、耐用年数は延び続けた。
綻びの発覚
ある投資家が同業他社との比較分析を行う中で、トウカイ工業の償却費対売上比率が異様に低いことに 気づいた。同じ種類の機械を使う同業と比べても、その差は説明がつかなかった。監査法人が過去の 耐用年数変更の履歴を調べると、変更のタイミングが軒並み「業績の苦しい期末」に集中していることが 確認された。しかも変更の根拠資料はほとんど残されておらず、社内に残っていたのは「今期はこれだけ 利益が足りない」という予算の差額と、それを埋めるように調整された耐用年数の一覧だけだった。
経営者・管理部門への3つの視点
- 耐用年数や償却方法の変更には、技術的・使用実態上の根拠を必ず文書で残す。根拠のない変更は、利益調整の温床になる。
- 償却費の対売上比率を同業と比較する。同じ設備を使う同業から著しくかけ離れていれば、理由を確かめる。
- 見積り変更が業績の苦しい期に偏っていないかを監視する。変更のタイミングそのものが、動機を語っている。
おわりに
耐用年数の変更は、実態から年数を決めるのではなく、欲しい利益から年数を逆算した瞬間に不正へと 変わる。変更のタイミングと根拠資料の有無を確認することが、最初の一歩になる。
初出: note「不正会計ケース23 「機械の寿命、延ばしておいて」」(2026.08.02)