補助金の交付元による現地調査で、申請書に記載された設備が工場のどこにも見当たらないことが確認された。 そこから調査は他の案件にも広がり、一人の課長が抱え込んでいた申請業務の実態が明らかになっていった。
舞台となった企業
ミドリ電工は電子部品を手がける年商70億円の中小メーカーである。設備投資や雇用創出を目的とした補助金の申請業務は、 担当課長がほぼ一人で担ってきた。
二段構えの手口
不正は受給の場面と会計処理の場面、二段構えで行われていた。受給段階では、実際には購入していない設備を購入したことにし、 結託した業者に請求書を実際の倍近くまで水増しさせ、その差額を名目を変えて会社に還流させていた。 勤務実態のない人員を雇用したという申請も含まれていた。
会計処理の段階では、受給した補助金の全額を「雑収入」としてただちに計上し、後に返還を求められる可能性を 一切考慮していなかった。引当金も計上されなかった。
綻びの発覚
補助金交付元が実施した現地調査で、申請書に記載された設備が現場に存在しないことが確認された。調査はほかの申請案件にも広がり、 勤務実態のない雇用として申請されていた人員の存在も明らかになった。申請内容と現場実態を照合する仕組みがなく、 経理部門は入金額を確認するだけで、申請・現場・会計処理が完全に分離していた。
経営者・管理部門への3つの視点
- 補助金申請の内容を、申請担当者以外の目で現場と照合する。設備の現物や雇用実態を確認する仕組みを持つ。
- 補助金の性格と交付条件に沿った会計処理になっているかを確認する。受給額を無条件に収益とみなさない。
- 返還を求められる可能性のある補助金について、引当と開示を検討する。受給後も条件の充足状況を追跡する。
おわりに
補助金は「もらえたら終わり」ではない。交付条件を満たしているかどうかは、後からいくらでも確認され得る。 申請書の数字と現場の実態が一致しているかを、受給後も定期的に確かめることが最初の一歩になる。
初出: note「不正会計ケース42 「申請書の数字は、少し盛っておきました」」(2026.08.21)