得意先から届いた一件のクレームが発端だった。「まだ届いていない商品の請求書が来ている」。 この違和感が、期末をまたいで続いていた出荷日付の操作を明らかにした。
舞台となる企業と手口
アオイ電子は産業用センサーを手がける精密機器メーカーで、年商180億円、上場2年目を迎えていた。 営業部長は期末が近づくと「その出荷、なんとしても三月中に間に合わせろ」と現場に指示を出し、 倉庫主任がそれに応じる形で、翌期に出荷予定だった注文の出荷伝票を三月末日付で切っていた。 実際にトラックが出るのは翌月、得意先の検収はさらに先だったが、帳簿上は三月三十一日の売上として 計上された。
常習化した「日付合わせ」
この前倒しは一度きりでは終わらなかった。営業部門ぐるみで期末ごとに「日付合わせ」が行われ、 運送会社の受領印は四月でも、社内の売上計上日は三月に設定される取引が、期を追うごとに 規模を拡大させていった。
綻びの発覚
発端は得意先からの一本のクレームだった。経理部門が該当取引を調べたところ、三月三十一日付で 売上計上された商品の現物が、四月になっても倉庫に残っていることが確認された。監査法人が 運送会社の配送記録と社内の売上計上日を照合すると、日付のずれが取引全体にわたって見つかった。
経営者・管理部門への3つの視点
- 決算月に売上が異常に集中していないかを確認する。期末だけ出荷が跳ね上がる会社には、理由を確かめる価値がある。
- 社内伝票ではなく、運送会社や得意先の第三者記録と照合する。身内で作れる書類だけでは、日付のずれは見えてこない。
- 翌期初の売上の落ち込みを監視する。前倒しされた売上は、必ず翌期のどこかで穴となって現れる。
おわりに
出荷日付の前倒しは、一度手を付けると期末ごとに規模を膨らませていく。得意先からの小さなクレームや、 翌期初の売上の落ち込みを見逃さないことが、最初の一歩になる。
初出: note「不正会計ケース21 「その出荷、三月中に間に合わせろ」」(2026.07.31)