社外監査役の手元に残っていたのは、ある一社にだけ異常に条件のいい取引が集まっているという小さなメモだった。 「なぜ、あの一社だけなのか」という疑問が、長く続いた不正の発覚につながった。
舞台となる企業
大和グローバルは年商150億円の商社で、創業者であるオーナー社長が一代で会社を築き上げた。 社長は切れ者で行動力もあったが、「会社の財布と、自分や身内の財布の境界が曖昧」という 癖を併せ持っていた。
「無関係」という言葉の裏側
決算資料に関連当事者取引として現れない一社があった。株主名簿を確認する限り、 大和グローバルとの資本関係は存在しない。しかし実際には、社長の身内が実質的に経営する会社であり、 株主名簿の形式だけが「無関係」を装っていた。
三つの手口
この会社を経由して行われていたのは、大きく三つのパターンだった。「吸い出し」——会社が本来百円で 売れる商品を、身内に一円で売り渡す。「肩代わり」——身内が抱えた不良在庫を、会社が高値で買い取る。 「かさ上げ」——決算の苦しい期に、身内に相場より高い価格で買ってもらい利益を上乗せする。 いずれも、独立した第三者が相手であれば成立しない条件だった。
綻びの発覚
社外監査役は、なぜこの一社にだけ条件のいい取引が集まるのかを疑い、登記を辿り、資金の流れを追い、 人の縁を一つずつ結んでいった。その結果、株主名簿上は他人でも、実質的には身内が支配する会社であることが 判明した。関連当事者取引の注記にもこの会社は一度も登場しておらず、開示そのものから意図的に 外されていたことも明らかになった。
経営者・管理部門への3つの視点
- 取引条件を「独立した第三者なら同じ条件で結ぶか」で検証する。一社にだけ甘い条件が集まっているなら、その背後を疑う。
- 株主名簿の形式だけで「無関係」と判断しない。実質的な支配関係は、資金の流れと人の縁に表れる。
- 関連当事者取引の注記は「何が載っているか」より「何が載っていないか」で読む。最も見せたくない取引ほど、開示から漏れやすい。
おわりに
会計不正とは、突きつめれば「どこまでを自分と見なすか」の線を、都合よく引き直す行為である。 株主名簿の外にある人の縁と資金の流れを追うことが、最初の一歩になる。
初出: note「不正会計ケース20 「あの会社は、うちとは無関係です」」(2026.07.30)