上場から2期目、新規契約は順調に増えていたはずなのに、売上の伸びだけが失速していた。 監査法人が前受収益の残高を洗い直したとき、その理由が見えてきた。
舞台となる企業
クレスト・ソフトは、企業向けクラウド型業務ソフトを提供する会社で、上場審査を控えていた。 社長は審査に向けて二桁の成長率を示したいという意向を強く持ち、管理部長が会計ルールの遵守を 提言しても、その声はあまり聞き入れられなかった。
前受金一括計上という手口
同社は顧客との間で三年、五年といった複数年契約を結び、利用料と保守料を前受金としてまとめて 受け取っていた。会計ルール上、この前受金は「前受収益」という負債として計上し、サービス提供期間に わたって按分して売上に計上しなければならない。三年契約なら、毎年その三分の一ずつを売上に計上する のが本来の姿である。しかしクレスト・ソフトは、三年分・五年分の前受金を初年度にまとめて売上として 計上していた。負債である前受収益は圧縮され、その分だけ損益計算書の売上と利益が膨らんでいった。
綻びの発覚
上場後の二期目、新規契約は順調に積み上がっていたにもかかわらず、売上の伸びだけが失速した。 すでに大半の複数年契約分の売上を初年度に計上し尽くしていたためである。監査法人が前受収益の 残高の異様な少なさに着目し、契約書のサービス提供期間と売上計上のタイミングを一件ずつ洗い直すと、 三年・五年契約の売上が初年度に集中している実態が判明した。根本には、提供実績ではなく 「お金がいつ入ったか」で売上を立てる、入金基準の社内ルールがあった。
経営者・管理部門への3つの視点
- 前受収益の残高が契約期間に見合って積み上がっているかを確認する。複数年契約が多いのに残高が薄い会社は、按分ルールを疑う余地がある。
- 入金時期と売上計上時期を混同しない。「いつ入金されたか」と「いつサービスを提供したか」は別の問題である。
- 複数年契約の売上按分を契約書で確認する。提供期間にわたって均等に計上されているかを、契約単位で照合する。
おわりに
複数年契約の前受金を初年度にまとめて売上化すれば、翌期以降の成長は必ず息切れする。 新規契約が増えているのに売上の伸びが鈍る会社は、前受収益の残高から確認する価値がある。
初出: note「不正会計ケース22 「三年分、今期の売上でいいよね」」(2026.08.01)