原価管理課の担当者が指摘した「現場の出来高は50%だが、決算資料では進捗60%」という乖離が、 あるプラント建設会社の大きな調査につながった。
舞台となった企業
舞台は、エネルギー関連プラントの設計・施工を手がける中堅企業(従業員約800名、年商400億円)。 国内プラント改修工事の市況低迷を受け、利益を削った戦略価格で48億円のガス処理プラント新設工事を受注していた。
工事進行基準の仕組みと弱点
長期契約工事では、進捗度に応じて売上を計上する工事進行基準が用いられる。進捗度は「発生原価÷工事原価総額見積り」で計算されるが、 分母である原価総額の見積りは会社自身が決定できるため、そこに操作の余地が生まれる。
操作の具体的な内容
受注時の原価見積りは40億円だったが、着工後の資材高騰と設計手戻りにより、現場の見込みは50億円に膨らんでいた。 しかし本部長は、見積り増額の申請を三度にわたり止めた。その結果、帳簿上は「発生原価24億円÷40億円=進捗60%」として 売上28.8億円・粗利4.8億円が計上されたが、実態の進捗率は「24億円÷50億円=48%」で、売上は約23億円にすぎなかった。 赤字が確実な工事には工事損失引当金2億円を計上すべきだったが、それも見送られた。
見積書一枚を「据え置く」だけで、売上5.8億円、利益では約7億円がかさ上げされた計算になる。 決算間際には、遅れた工事の原価を進捗に余裕のある別の工事台帳へ付け替えることも行われ、3年後には同様の案件が5件に増え、 かさ上げされた利益は累計20億円を超えていた。
綻びの発覚
先行して操作していた案件が完成を迎え、引渡し時に8億円の損失が一括で噴き出した。進捗率が100%に達した時点で、 見積り操作は隠しようがなくなる。監査法人はこの大きな損失を起点に調査し、4件の工事で原価総額が3年間一度も更新されていないことを発見した。 原価管理担当者が使っていた実行予算システムの記録は、現場からの増額申請を裏付けており、未成工事支出金は膨らみ続け、 営業キャッシュフローは3期連続でマイナスだった。
経営者・管理部門への3つの視点
- 工事原価総額の「見積り更新履歴」を確認する。長期間動かない見積りは、正確なのではなく動かせない事情がある可能性がある。
- 会計上の進捗率と現場の工程表・出来高を定期的に突き合わせる。乖離そのものより、説明できない乖離が危険である。
- 完成時に大きな損失が出た工事を必ず事後検証する。「見積り失敗」と「見積り操作」を区別する仕組みを持つ。
おわりに
工事原価総額の見積りは、現場の実態を映す数字であるはずが、更新を止めた瞬間に会議室で作られる数字に変わる。 組織内に長期間動いていない見積書がないか、確認することが最初の一歩になる。
初出: note「不正会計ケース4 工事進行基準の操作」(2026.07.14)