Case Study

不正会計ケース2 在庫の水増し

棚卸の数字は、倉庫を一度も歩かなくても書き換えられる。

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期末在庫の数字は、現場の棚卸カウント票から一枚も減らさずに膨らませることができる。 ある精密部品メーカーで3年にわたり続いた在庫水増しは、その事実を静かに証明していた。

舞台となった企業

舞台は地方の精密部品メーカー。最大顧客の生産拠点が海外へ移管され、原材料費の高騰も重なり、業績は年々悪化していた。 銀行からの借入には財務制限条項(コベナンツ)が付いており、一定の財務指標を割り込むと一括返済を求められる契約になっていた。 この条項を回避したい管理本部長が手を伸ばしたのが、在庫の水増しだった。

在庫水増しの仕組み

売上原価は「期首在庫+当期仕入-期末在庫」で計算される。期末在庫を実際より多く計上すれば、その分だけ売上原価が減り、利益が増える。 棚卸資産は現金のように残高確認がしにくく、数量と評価の両方に操作の余地がある点が、この手口を成立させていた。

3年間で進化した手口

手口は一度きりではなく、年を追うごとに巧妙化していった。

  • 1年目:棚卸カウント票を現場から回収し、集計段階で数量を書き換えた。
  • 2年目:実体のない「外部倉庫への預け在庫」を帳簿に追加した。
  • 3年目:仕掛品・完成品の原価付け替えにより、評価額そのものを膨らませた。

こうして帳簿上の在庫は8億円から15億円まで膨張し、そのうち実際には存在しない在庫が8億円に達していた。

綻びの発覚

発覚のきっかけは、新任の監査人が指摘した在庫回転期間の異常だった。それまで45日前後で安定していた在庫回転期間が、110日まで悪化していたのである。 事前予告のない倉庫往査を実施したところ、帳簿上あるはずの在庫の一部が見当たらず、空のパレットと、すでに生産を終えた旧規格品だけが残されていた。

経営者・管理部門への3つの視点

  • 在庫回転期間と粗利率を時系列で見る。回転期間が悪化する一方で粗利率が保たれている会社には、説明が必要である。
  • 棚卸のカウントと帳簿への反映を、別の人間が担当する。集計と記帳が同じ手の中にあると、数字はいくらでも書き換えられる。
  • 評価損がゼロのまま続く在庫を警戒する。市場環境が変わり続けているのに、一度も評価損が出ない在庫は不自然である。

おわりに

在庫は、現金や売掛金に比べて外部からの確認が難しい資産である。だからこそ、回転期間・評価損・棚卸プロセスという複数の切り口から 定期的にチェックする仕組みが欠かせない。倉庫を歩かずに帳簿だけを見ていては、水増しに気づくことはできない。

初出: note「不正会計ケース2 在庫の水増し」(2026.07.12)

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