あるとき買収した通販子会社に生じたのれん28億円が、帳簿に載ったまま何年も動かなかった。 動かなかったのは業績が回復したからではなく、回復計画が毎年書き直されていたからだった。
問題の背景
舞台は、通販子会社を買収した食品メーカー。買収時に発生したのれん28億円の価値を帳簿に維持するため、 経営陣は毎年、同じ形の経営回復計画を提示し続けていた。「来期から回復する」という説明が、三度繰り返されていた。
構造的な弱点
のれんの減損判定には、将来キャッシュフローの予測が使われる。この予測は経営者自身が作成する事業計画に依存しているため、 強気の計画を提示し続けるだけで、帳簿上の資産価値を守ることができてしまう。誰も自分の見立ての失敗を認めたくないという心理も、 この先送りを後押ししていた。
綻びの発覚
外部環境の規制強化により、回復計画の前提そのものが崩れた。監査法人は過去の計画の達成率がいずれも低かったことを指摘し、 最終的に一括での減損処理が実行された。
経営者・管理部門への3つの視点
- 過去の計画達成率を検証する。「来期から回復する」という説明が、過去にも同じ形で繰り返されていないかを確認する。
- 買収時に見直し基準をあらかじめ決めておく。どの指標がどの水準を割り込めば減損を検討するかを、買収前に明文化する。
- 減損テスト用の計画と社内予算の一致を確認する。減損を避けるためだけに作られた計画と、実際の経営目標がずれていないかを見る。
おわりに
のれんの減損は、経営者自身の見立てが判定材料になるという構造上、先送りに弱い。 「来期から回復する」という説明が何年続いているかを数え、過去の計画の達成率を確認することが、最初の一歩になる。
初出: note「不正会計ケース11 三度目の「来期から回復します」」(2026.07.21)