Case Study

不正会計ケース33 「借りているだけ、という形にしてほしい」

帳簿の上では、工場の心臓部となる設備を「借りている」ことになっていた。

← 記事一覧に戻る

監査法人が工場の設備台帳と貸借対照表を見比べたとき、有形固定資産の額があまりに小さいことに気づいた。 稼働している大型設備の規模と、帳簿上の資産価値がまるで釣り合っていなかったのだ。

舞台となる企業

株式会社ソウワ食品は年商260億円の加工食品メーカーである。主要取引銀行との間で有利子負債の水準を 一定以内に抑える財務制限条項(コベナンツ)を結んでおり、これに抵触すると金利条件の見直しや期限前返済を 求められる契約になっていた。老朽化した冷凍・製造設備の一括更新には約12億円の投資が必要だったが、 この投資を借入で行えばコベナンツに触れる可能性があった。財務担当役員が経理部に持ちかけたのは、 この設備投資を「借りているだけ、という形にしてほしい」という一言だった。

「リース」という名の売買

実際には設備は経済的耐用年数のほぼ全期間にわたって使用され、支払われるリース料の総額は資産価値の ほぼ全額に達していた。契約が終了すれば、設備は実質的に自社のものになる——会計上は明らかにファイナンス リースであり、資産と負債を両建てで計上すべき取引だった。

ところが契約書に記載されたリース期間は、実際の使用期間よりも大幅に短く設定されていた。残価は名目的な 金額(1万円)とされ、契約終了後に設備を買い取る旨の確約は、本体契約とは別の覚書に切り離されて保管されていた。 この覚書さえ見なければ、契約は一見、通常のオペレーティングリースに見えるよう仕組まれていた。この処理により、 本来両建てで計上されるべき資産と負債が貸借対照表から消え、有利子負債はコベナンツの範囲内に収まっているように見えた。

綻びの発覚

発覚の糸口は、監査法人による現場確認だった。工場を訪れた監査担当者は、稼働している冷凍・製造設備の 規模と、貸借対照表に記載された有形固定資産の額があまりに釣り合っていないことに気づいた。

疑問を持った監査法人がリース契約を一件ずつ精査したところ、複数の契約に共通して「本体契約とは別の覚書」が 存在することが判明した。覚書には、契約終了後に名目残価で設備を買い取る旨が明記されており、 実質的にはファイナンスリースであることが明らかになった。

経営者・管理部門への3つの視点

  • リース料総額が資産価値のほぼ全額に達していないか確認する。実質的な売買を、リース契約の体裁だけで判断してはならない。
  • 契約書に付随する覚書・別紙の有無を確認する。買取確約や名目残価が本体契約から切り離されて隠れていないかを見る。
  • 現場の設備規模と貸借対照表の固定資産が釣り合っているか検証する。身の丈に合わない小さな資産額は、オフバランス化を疑うきっかけになる。

おわりに

「借りているだけ」という言葉の裏に、実質的な売買が隠れていることがある。リース期間や残価の設定だけでなく、 契約に付随する覚書まで確認しなければ、本当の姿は見えてこない。現場の設備と帳簿の固定資産が釣り合っているかを 定期的に見比べることが、最初の一歩になる。

初出: note「不正会計ケース33 「借りているだけ、という形にしてほしい」」(2026.08.12)

「借りているだけ」の裏に隠れた売買、見逃していませんか。