現地スタッフから本社に届いた一通の英文メールには、こう書かれていた。「売上の一部は実在しないと思う」。 その一文が、3年間続いた架空売上の発覚につながった。
舞台となった企業と手口
アサギリ製作所は機械部品を製造する東証上場企業で、年商600億円。東南アジアの販売子会社は連結売上の わずか7%(約40億円)を占める拠点だったが、全社の中で最も高い成長率を記録し、本社からも「優等生」と見なされていた。
市況が悪化し実績が落ち込んだ現地社長は、実在しない販売店への売上を計上し始めた。仕訳は「売掛金/売上高」という 単純なものだったが、架空の売上には入金が伴わない。3年間の累計で計上された架空売上は12億円に達し、その分だけ 売掛金が帳簿上に積み上がっていった。現地社長は本社からの問い合わせに対し、「この国では回収サイトが長い」と説明を繰り返した。
膨らみ続けた売掛金
売掛金の回転日数は、1年目の90日から2年目には150日、3年目には210日まで延伸した。大口の販売店3社はいずれも 同じ私書箱を登記上の住所としており、代表者はいずれも現地社長の親族だった。
レポーティングパッケージには損益しか含まれておらず、売掛金の年齢調べや回転日数は本社に共有される数字の中に 存在しなかった。距離と言葉の壁が、この異常を長く覆い隠していた。
経営者・管理部門への3つの視点
- 売掛金の年齢調べと回転日数を、海外子会社にも同じ基準で求める。損益だけのレポーティングパッケージは、回収の実態を映さない。
- 往査を「コスト」ではなく「保険料」として予算化する。渡航費を削って往査を止めた3年間が、不正の温床になった。
- 内部通報窓口を現地語で運用し、現地トップの人事権を本社が握る。言葉の壁は、通報のハードルにもなる。
おわりに
距離と言葉の壁は、監視の空白を生む。しかし売掛金の回転日数のような数字の異常は、言語の違いを超えて姿を現す。 海外子会社のレポーティングに損益以外の指標を加えることが、最初の一歩になる。
初出: note「不正会計ケース12 誰も読めない請求書」(2026.07.22)