若い監査スタッフが放った、たった一つの質問がきっかけだった。「その設備、本当に据え付けましたか」。 案内役の設備課長は、その場で言葉を詰まらせた。
舞台となる企業
セキヤ産業は樹脂加工を手がける装置産業で、年商300億円。設備投資額の大きさが、 この業種特有の弱点になっていた。
水増し発注という手口
実際には一億円で調達できる設備を、協力先と結託して三億円で発注する。差額の二億円は、 協力先を経由してセキヤ産業側へ還流する仕組みだった。固定資産は購入時に一括で費用化されず、 耐用年数にわたって償却されるため、支払った金額をそのまま資産として計上すれば、 赤字を黒字に見せかけることができた。
架空計上という手口
水増しに加えて、存在しない設備を書類だけで固定資産台帳に計上する架空計上も併用されていた。 台帳の上では稼働しているはずの設備が、実際には工場のどこにも存在しないという状態が 積み重なっていった。
綻びの発覚
若い監査スタッフが、固定資産台帳に記載された主要設備の現物確認を求めた際、設備課長は 「試運転のために別棟に移してあります」と説明したが、実際にはその設備は見つからなかった。 役員のひとりは調査の場で「工場は稼働している。設備が一台くらい図面と違っても、 誰も気づかない」と述べたが、現物実査を進めるほどに、台帳と実態のズレは広がっていった。
経営者・管理部門への3つの視点
- 金額の大きい固定資産は、台帳の上だけでなく現物を確認する。書類が整っていることと、実在することは別問題である。
- 設備の発注額が相場から乖離していないかを、相見積りや過去実績と照らす。一社にだけ極端に高い金額が通っていないかを確認する。
- 支払った資金がどこへ流れ、戻っていないかを追う。取引先を経由した資金の還流は、帳簿だけでは見えない。
おわりに
「設備が一台くらい図面と違っても、誰も気づかない」という感覚こそが、不正の温床になる。 台帳と現物を定期的に照合することが、最初の一歩になる。
初出: note「不正会計ケース24 「その設備、本当に据え付けましたか」」(2026.08.03)