エイシン・エンジニアリングでは、顧客との追加請求の交渉がまだ決着していないにもかかわらず、 事業部長の指示で満額を売上として計上する運用が続いていた。「通る前提で計上しておこう」という言葉が、 その後の巨額の取消しにつながった。
舞台となった企業
エイシン・エンジニアリングはプラント設備の設計・施工を手がける年商240億円の企業である。工事の途中で発生する 仕様変更や工期延長は、追加請求として顧客と交渉するのが通常の流れだった。
交渉中の金額を売上にする手口
事業部長は、顧客からの書面での同意がないまま、また「増額には応じられない」という回答を受けていたにもかかわらず、 追加請求を満額で売上に計上するよう指示していた。変動対価として扱うべき未確定の金額を、交渉の見通しだけで 先取りしていたことになる。過去の同種請求がどの程度認められてきたかという実績も、見積りには反映されていなかった。
綻びの発覚
ある大型案件の交渉が決裂し、計上していた追加請求のほとんどが認められず、売上の取消しを迫られた。 監査法人がほかの案件についても未合意の追加請求を調査したところ、複数の案件で長期にわたり回収されていない 売掛金が積み上がっていることが判明した。
経営者・管理部門への3つの視点
- 未合意の追加請求を売上に含めるなら、相手方の書面での合意や交渉の状況を根拠として残す。自社の主張だけでは根拠にならない。
- 過去の追加請求の認容率を集計し、見積りの土台として参照する。希望的な金額をそのまま反映しない。
- 長期にわたり回収されていない売掛金の内容を定期的に確認する。放置された滞留は不確定な収益の温床になる。
おわりに
自分たちの言い分が正しいと信じることと、それが収益になることは違う。交渉がまだ続いている金額を売上に 含めていないか、そしてその根拠が自社の主張だけになっていないかを確認することが、最初の一歩になる。
初出: note「不正会計ケース44 「追加請求は、通る前提で計上しておこう」」(2026.08.23)