Case Study

不正会計ケース3 押し込み販売

目標は最終週に達成した。だが、売った先では売れていない。

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物流センターの主任が漏らした「毎年、三月最終週だけ臨時のトラックが並ぶ」という一言が、 あるオフィス機器メーカーを揺るがす調査の入り口になった。

舞台となった企業

舞台は、オフィス向け複合機・什器を全国の販売代理店網で売る中堅メーカー。上場時に「毎期増収」を市場に約束していたが、 ペーパーレス化で主力市場は縮小を続けていた。実需の縮小と数字への約束の板挟みになったのが、販売本部長だった。 代理店の多くは仕入の大半をこの会社に依存する専売店で、メーカーからの「お願い」を断れる立場にはなかった。

押し込み販売の仕組み

押し込み販売とは、販売先の購入意思やビジネス合理性にかかわらず、自社の売上を作るために商品を無理に出荷し、 売上として計上してしまう手口である。売上計上は出荷基準(商品が自社倉庫を出た時点で売上が立つルール)だったため、 期末最終週に通常の三倍近い量を主要代理店へ出荷し、帳簿には売上高が計上された。

代理店が受け入れたのには理由がある。正式な発注書とは別に、「売れ残ったら返品してよい」「支払いは売れてからでよい」 「引き受ければ特別なリベートを上乗せする」といった、帳簿の外の口約束(サイドレター)が交わされていたのである。 返品も支払いも自由なら、その商品はまだ「売れていない」。実態は代理店の倉庫を借りて自社の在庫を置いただけだった。

穴を埋めるための膨張

翌期のはじめには、売れ残った分が返品と値引きになって戻ってくる。開いた穴を埋めるには、次の期末にもっと大きく押し込むしかない。 押し込みの規模は年々拡大し、三年目には四半期売上の三割が最終週の一週間に集中するようになっていた。 リベートと物流費の負担は増え続け、増収のはずの会社の利益率は、逆に毎期薄くなっていった。

綻びの発覚

綻びは、複数の方向から同時にやってきた。

  • 現場:大口代理店の倉庫が満杯になり、外部倉庫を借りてまで製品を保管していることが判明した。
  • 経理:売掛金の回転日数が三年で60日から110日に延び、営業が代理店への督促を「先方に事情がある」と止めていた。
  • 監査法人:期末最終週の出荷分だけ翌期の返品率が突出して高く、代理店の残高確認状には「一部は委託品と認識している」との回答があった。

経営者・管理部門への3つの視点

  • 売上の月次・週次推移を見る。四半期の最終週に売上が偏る会社には、押し込みの誘因が働いている。
  • 売掛金回転日数と期首の返品・値引きをセットで見る。売った直後に戻ってくる売上は、実態がない可能性がある。
  • 販売条件を営業任せにしない。返品・リベート・支払条件は必ず書面にして経理と共有し、帳簿の外の約束を明確に禁じる。

おわりに

押し込み販売は「売上の前借り」にすぎず、実需は一円も増えない。それどころか、リベートと物流費の分だけ会社は確実に貧しくなっていく。 月次の売上推移を開き、期末の最終週に何割の売上が立っているかを確認することが、最初の一歩になる。

初出: note「不正会計ケース3 押し込み販売」(2026.07.13)

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