ホクセイ建材は複数の銀行に10数個の口座を持つ建材メーカーである。決算日の夜、A銀行の口座からB銀行の口座へと動いた1億円は、 記帳のタイムラグによって、どちらの口座にも「ある」ように見えていた。
舞台となった企業
ホクセイ建材は年商140億円の建材メーカーで、複数の銀行に10数個の口座を持っていた。資金の管理は、 資金担当の課長が長く一人で担ってきた。
記帳のタイムラグを悪用した手口
決算日の直前、A銀行の口座からB銀行の口座へ1億円を送金する。B口座では入金がその日のうちに記帳されるが、 A口座からの出金は翌営業日に記帳される。このタイムラグを利用すれば、決算日時点で同じ1億円が、 A口座にもB口座にも「ある」ように見える。この操作を複数の口座で同時に行うことで、決算書上の現預金は実際より多く見えていた。
綻びの発覚
監査法人が「期末をまたぐ資金移動の一覧」を求めたことが発覚のきっかけになった。決算日前後数日間の口座間振替が 異常に集中していることが判明し、送金元の出金日と送金先の入金日を一件ずつ突き合わせると、決算日をまたいで 宙に浮いている資金が次々と見つかった。
経営者・管理部門への3つの視点
- 期末をまたぐ口座間の資金移動を一覧化し、送金日と入金日を照合する。片方の記帳だけを見て残高を判断しない。
- 決算日前後の資金移動には、事業上の必要性を説明できるかを確認する。集中する振替に理由があるかを問う。
- 多数の口座を持つ企業では、口座間の資金の流れを全体として把握する仕組みを持つ。個別の口座だけを見ない。
おわりに
キティングの危険性は、書類が一枚も偽造されないところにある。残高証明書も通帳も本物だが、合算のタイミングが 現実の資金の姿を反映していない。決算日をまたぐ資金移動がどれだけあるかを数えることが、最初の一歩になる。
初出: note「不正会計ケース43 「三月三十一日の夜、同じ一億円が二つの口座にあった」」(2026.08.22)