ある建設機械販売会社の売掛金には、回収の見込みが薄い12億円が含まれていた。それでも、引当金はゼロのまま計上されていた。
問題の背景
この会社は銀行との融資契約に「経常赤字禁止」という財務制限条項を抱えていた。赤字を計上できない事情から、 引当金の計上は先延ばしにされ続けた。背景には、一取引先への与信が純資産の1.5倍にまで集中していたこともあった。 その取引先では、入金延期や手形の書き換えといった支払遅延が3年間にわたって続いていた。
発覚までのプロセス
監査人が売掛金の年齢調べを3期分並べて比較したところ、滞留債権が3億円、7億円、12億円と一直線に増加していることが明らかになった。 支払いが遅れるたびに「まだ交渉中で、損失は確定していない」という説明が繰り返されていたが、実態は回収不能債権の先送りだった。
結末
最終的に取引先は民事再生手続に入り、この会社には10億円の貸倒損失が発生した。長年抑え込んでいた損失が一括で表面化し、 会社は債務超過に陥った。
経営者・管理部門への3つの視点
- 引当金を回収実績で検証する。「まだ確定していない」という説明が、何期にもわたって繰り返されていないかを確認する。
- 売掛金の年齢調べを経営会議の定例資料に組み込む。滞留債権の推移を毎回のせることで、先送りを可視化する。
- 特定取引先への与信集中を監視する。純資産に対して過大な与信は、一件の取引先の破綻が会社全体を揺るがすリスクになる。
おわりに
損失は、認めないことで消えるわけではない。先送りしている間に規模だけが膨らんでいく。 売掛金の年齢調べを定例化し、滞留が一直線に増えていないかを確認することが、最初の一歩になる。
初出: note「不正会計ケース8 「損はまだ確定していない」はずだった」(2026.07.18)