プラントは、いつか必ず解体される。その時に必要な費用は、決算書のどこにも大きくは見えていなかった。 老朽化した一つの工場を実際に取り壊したとき、帳簿に積んでいた額とあまりに違う数字が現れた。
手口の仕組み
サンリク化学は化学プラントを製造するメーカーで、年商は三百五十億円。同社が抱える問題は、プラントの使用が終わったときに 必要となる解体費、有害物質の除去費、土壂浄化費という将来の負担、会計上「資産除去債務」と呼ばれるものにあった。
専門業者による適正な試算はすでに存在していたが、経営企画部長や財務担当役員はそれを採用しなかった。使われていたのは 何年も前の古い前提と、楽観的な単価だった。見積り議論の場で経営企画部長が口にしたのは「そのとき考えればいい」という 一言であり、財務担当役員は銀行からの評価を気にして、あえて低い見積りを選び続けていた。結果として、帳簿上の資産除去債務は 実態よりはるかに小さい水準に抑え込まれ、負債が軽く見え、毎期の費用が削減され、利益が積み上げられていった。
発覚の経緯
綻びが生じたのは、老朽化した一つのプラントを実際に閉鎖したときだった。専門業者に依頼した解体見積りは、帳簿に 計上されていた額の数倍に達した。この差に驚いた監査法人が全社的な調査に踏み込むと、他のすべてのプラントについても 同様に見積りが過少であることが判明した。前提となる単価は長年更新されておらず、人件費や処分費の上昇もまったく 反映されていなかった。
経営者・管理部門への3つの視点
- 除去・原状回復の義務がある設備について、資産除去債務が計上されているか、その見積りが最新の単価に基づいているかを確かめる。古い前提のまま放置された見積りは、実態から取り残されていく。
- 見積りの前提が長年更新されていない場合は、その理由を問う。更新を避ける動機が、負債の膨張を恐れる気持ちであることもある。
- 将来の義務を「まだ先」として先送りしていないかを見る。必ず出ていく費用は、いま計上しておくべき費用である。
おわりに
資産除去債務は、将来必ず発生する費用でありながら、見積りという人の判断に依存する負債でもある。だからこそ、前提の 古さは静かな先送りの温床になる。自社が抱える設備の解体・原状回復費用が、直近の単価でどれだけ再計算されているか、 確認することが最初の一歩になる。
初出: note「不正会計ケース27 「解体費用は、そのとき考えればいい」」(2026.08.06)